コラム

 公開日: 2014-11-03  最終更新日: 2016-01-13

精神障害者の雇用義務化に向けて~障害特性、職務の選定、採用面接・選考から労務管理まで~

【最終更新日:2015.10.27】

気分障害と統合失調症

障害者雇用促進法の改正により、2018年度からは障がい者法定雇用率の算定基礎の対象に新たに精神障がい者が追加されることになり、法定雇用率も引き上げられることになります。また、ここ10年で精神障がい者の新規求職申込件数、就職件数ともに右肩上がりで増加している状況からもわかるとおり、企業には今後更に精神障がい者の雇用への対応が求められることになると言えます。

精神障害には様々な種類の疾患があり、精神障がい者の雇用管理については、疾患の種類により多少なりとも対応に差異が生じることは言うまでもありません。また、同じ種類の疾患でも個々人の症状は多様であり、各々のパーソナリティに配慮した雇用管理が必要です。

しかしながら、精神科の患者数や精神障害者保健福祉手帳の所持者数の割合から見ると、うつ病や躁うつ病などの『気分障害』と『統合失調症』という二つの疾患が多くを占めていることがわかります。そして、雇用管理という視点から見た場合、これらの疾患には一般的な傾向としての共通点を挙げることができます。

精神障がい者に共通する障害特性、一般的特徴

(1)病気と障害を共に抱えていること
身体の障害とは違い、精神障害の多くは症状が固定化していません。将来的に症状が改善する場合もあれば、悪化する可能性もあります。障害でありながら、病気と同じく継続的な受診や治療が必要です。

(2)症状悪化に対する不安
職場の人たちと関わり合いながら仕事をするという選択をしたことで、症状が悪化するのではないか、以前の重たい症状が再発するのではないかという恐怖心を抱えており、このような不安を背負いながら仕事に臨んでいます。

(3)中途障害による自信の喪失
精神障がい者は人生の途中で疾患を抱えることにより、発症前は普通にできていたことが発症後はできなくなってしまっているというように、多くは人生の一変を経験しています。さらに、精神障害に対する偏見や、精神障がい者が企業で働くことに対する社会的無理解がいまだ残る状況の中で、自信喪失に陥っていることが多くあります。

(4)体力的課題
緊張状態が継続する傾向や薬の副作用が原因で疲れやすく、体力的課題を持っている場合があります。

精神障がい者が従事する職務の選定

精神障がい者を受け入れる場合、上記のような「症状悪化に対する不安」、「中途障害による自信の喪失」、及び「ストレスに対する弱さ、疲れやすさ」といった障害特性を勘案し、従事する職務を選定します。特に、雇用の初期段階においては「作業量や業務の種類が多い仕事」、「作業量や仕事内容の変化が大きい仕事」、「納期が厳しい仕事」は出来るだけ避けたいところです。

ただし、精神障害のある求職者の中には、前職において過度のストレス等で精神疾患を発症したケースなど、高い職業的能力を有している方々も多く見受けられます。雇用管理上の配慮を適切に行うことにより、専門的知識が求められる仕事や、高い技術を必要とする仕事であっても十分対応できる場合があります。

精神障がい者に対する面接・選考のポイント

採用面接、採用選考の際に確認しておきたい主要事項は以下のとおりです。

(1)「自分自身の障害について正しい認識を持っているか」
●診断名、及びどのような障害か。
●発症時から現在までの症状の経過状況、今現在の状態、症状が安定し始めてから現在までの期間。
●日常生活及び社会生活の中で苦手なこと、出来ないこと。

(2)「自己管理・体調管理について理解しているか」
●通院の有無、頻度。
●服薬の有無、適切に服用できているか。
●ストレスへの対処(日頃から心がけていること、解消法など)

(3)「本人が働きやすい職場となるよう、どのような配慮を希望しているか」
●本人の希望をヒアリングした上で、会社側はどのような配慮をすべきか、または出来るかを検討。

(4)「安定した勤怠の前提として、規則正しい生活習慣が確立しているか」

また、求職者が就労移行支援事業所などの支援機関を利用している場合、支援者が面接に同席することもしばしば見られます。本人の障害の状況、会社側の配慮事項など本人からのヒアリングのみでなく、支援機関からの情報提供も受けることは、採否を判断する上で非常に有効です。

精神障がい者に対する労務管理

(1)段階的・長期的視点に立った労務管理
前述した精神障がい者の障害特性を踏まえ、特に雇用の初期段階においては、勤務時間・勤務日数や残業の取扱いなどの労働条件については配慮しなければなりません。先ずは身体的・精神的に負担の少ない勤務時間・勤務日数からスタートする、一定期間は同じ時刻に終業できるように残業を制限する等の柔軟な対応が望まれます。

慎重な対応が必要ではありますが、職場への適応・定着が進んでいると判断できれば、勤務時間・日数を増やす等労働条件の段階的変更や、作業量の増加や担当業務の追加など業務レベルの引き上げを視野に入れることも可能となります。このように、精神障がい者の労務管理は、段階的・長期的な視点を持って取り組むことが重要です。

(2)健康管理
精神障害は継続的な診療を必要とするため、月に1回~2回ほど通院中である者がほとんどです。本人が気兼ねなく、また確実に通院できるよう労務管理上の配慮が求められます。
また、本人の同意があることが前提ですが、本人の診察状況や主治医の視点からの助言など、医療機関との連携により情報収集ができると尚よいでしょう。

(3)定期的な面談の実施
本人との面談時間を定期的に設けることも労務管理上のポイントです。悩みや不安を自発的に相談できずに一人で抱え込んでしまうことは、精神疾患の有無に関わらず誰しも経験するところですが、そのような傾向は精神障がい者にはより強く表れます。相談できる機会を定期的に設けることによる安心感、相談にのってもらえることから生まれる職場に対する信頼感の醸成は、職場への適応・定着に大きく寄与するものとなるでしょう。

在籍社員に対するメンタルヘルス対策との関連性

労働安全衛生法の改正により、2015年12月から労働者に対するストレスチェックが企業に義務付けられることになりました。これを受けて、社員のメンタル不調の予防をはじめとしたメンタルヘルス対策に取り組みはじめる企業も多いと思われます。

このような在籍する社員に対するメンタルヘルス対策と、今まで述べてきたところの新規雇用する精神障がい者の労務管理はリンクさせて捉えることができます。例えば、精神障がい者の新規雇用時の労務管理ノウハウは、メンタル不調による休職者が職場復帰する際の労務管理に通じる部分が多くあります。また逆に、一連のメンタルヘルス対策の中で構築された外部の精神科医療機関や支援機関との連携体制は、精神障がい者の新規雇用時にも有効に活用することができるのです。

企業のメンタルヘルス対策と、精神障がい者の新規雇用の問題を個別に捉える必要はありません。企業の『精神障害』に関わる取り組みにおいて、「予防」「職場復帰」そして「新規雇用」といった問題を一体的に捉える視点を持つことが求められていると言えるでしょう。

関連コラム:発達障がい者雇用マニュアル~障害特性、就労上の課題と雇用管理

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